坂本龍一が待望のニューアルバムをリリースします。オリジナルアルバムとしてはじつに8年ぶりとなる今回の作品は、「あまりに好きすぎて、誰にも聴かせたくない」というご本人の意向から、なんと、音源はもちろんタイトル含め一切の内容が明かされていません!
情報が小出しにされる気配はありませんので、ファンとしては、特設サイト の、アルバム発売日3月29日に向けて刻み続けるカウントダウンを見ながらあれこれ妄想するのみです。ただし、音楽性も活動範囲も多岐にわたる坂本龍一ですから、妄想も収拾がつかないほど膨らんでしまいます。
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特設サイト「予習」「予想」ページ には、同じく妄想を膨らませたファンのTwitter投稿(ハッシュタグ #snm50)に加え、教授と親交の深いアーティストの「予想」が続々と発表されています。また、「予習」ではライター吉村栄一氏によって、坂本龍一の軌跡が紹介されています。これらの内容をふまえつつ、アルバムを聴くにあたっての前準備をしていきましょう。
特設サイトの「予想」を見てみると、外しにいっているようにすら思える突拍子もない内容に驚くのではないでしょうか。TOWA TEIは全曲、教授自らの歌と生ドラムがメインの作品と予想していますし、Cibo Mattoのハトリミホは教授が「レゲェをやる」ことを確信しています。
蓮沼執太にいたっては、アルバムを想像すること自体を作品と予想しているほどです。もし当たっていれば、予定されているワールドツアーは「妄想」で構成されるのでしょうか(笑)。U-zhaanの「本当はまだなにもやってない」との予想には生々しすぎてドキッとします。
さすがアーティストたちの予想は、どれも信憑性(しんぴょうせい)があるように思えてきてしまいますよね。
特設サイトの「予習」によれば、今年2017年はYMO再々結成から10周年とのことです。10年前の再々結成は、KIRINラガービールのコマーシャルによって実現し、エレクトリック・ディスコの名曲「RYDEEN」が、エレクトロニカの「RYDEEN 79/07」として生まれ変わりました。
坂本龍一からすればこれは特別なことではなく、彼の音楽性は原点回帰を繰り返しながらも、新しいもの、そのとき良いと思ったものを取り込んで刷新を続けています。
さらには3.11や9.11といった世界規模の事件、あるいは自身の病気といったライフイベントの影響を色濃く受けながらアーティスト活動がダイナミックに変化し続けています。
ところで、「戦場のメリークリスマス」や「エナジー・フロウ」のようなピアノの名曲に「坂本龍一らしさ」を感じる人は意外に少ないのではないでしょうか。
さまざまな社会活動に携わる坂本龍一ですが、自身が主宰する文化振興プロジェクト「commmons(コモンズ)」からリリースされている独自の音楽大全「commmons: schola(コモンズ・スコラ) 」では、クラシックからアフリカの伝統音楽、ドラムンベース、そして最新刊のvol.16ではジャパニーズポップスまでが網羅的に取り上げられてます。
坂本龍一の音楽に対する知見の広さ・深さに改めて驚嘆しますが、これだけのバックグラウンドを持っているからこそ、大衆性から最も遠い音楽性を持ちながらも、幅広いファン層から支持されているのでしょう。
このように「予想」と「予習」、また坂本龍一が最近取り組んできた活動内容から見通せる新作の内容は、フィールドレコーディング(Sound of Nature)とメロディのあるもの(Music)が半々で構成されたアルバムになるのではないでしょうか。
坂本龍一がパーソナリティを務めるラジオ番組「radio sakamoto 」では、教授の好みの音楽や投稿作品に対する鋭いコメントを聞くことができますので、最近の教授の音楽観を知るうえで参考になるかと思います。いずれにせよ、美しくていつまでも聴いていたい作品になることは間違いなさそうですね。
いかがでしたか?偉大な作品は、単発で聴いても素晴らしい体験を提供してくれますが、文脈も含めて理解することでよりしっくりくるものです。アルバム発売は8年ぶりですが、療養期間も含めダイナミックに活動を展開している坂本龍一のバックグラウンドを知ることで、作品の味わいはさらに深みを増すでしょう。
11月には震災以降の坂本龍一の活動に密着したドキュメンタリー映画「RYUICHI SAKAMOTO DOCUMENTARY PROJECT(仮題)」も公開予定となっています。2017年は、一枚のアルバムというより坂本龍一から生み出されるすべてに興味が湧くかもしれません。