幼少期から始めておきたい子どもの習い事でも人気があるのが「リトミック」。初めての習い事としてレッスンの人気が高く、多くの幼稚園や保育園のプログラムにも取り入れられています。
幼児教育として有名ですが、そもそもリトミックとは何なのでしょうか。どんな種類や効果があるものなのでしょう?
今回は、そんなリトミックの具体的な内容や効果、自宅で試せるプログラムを東京音楽大学出身のピアノ講師、「溝井花代子(みぞいかよこ)」さんに伺いました。知っているようで知らない、リトミックの実態をお話いただきます!
もくじ
リトミックとはスイスの作曲家「エミール・ジャック=ダルクローズ」が19世紀後半頃に開発した音楽教育の手法。人間の聴覚・運動能力・想像力などにアプローチする「音楽×動作(運動)」のプログラムが中心で、国内では「幼児向けの音遊び」として認知されています。
リトミックについて溝井さんに伺ったところ、初っぱなから思いがけぬ回答が飛び出しました…!
「溝井さん:リトミックは元々、“音楽家を育てるために考案された教育法”であり、“表現者のための教育”でもあります。恐らく、多くの方々が幼児向けというイメージを持っているかと思いますが、プログラム自体が非常に柔軟であることから、幼児教育への応用も可能できるんです。実際、一般的なリトミック教室ではリズム体操を中心に行っていますが、それはあくまで、教育プログラムの一部を使っているだけなんですよ」
筆者も含め、“リトミック=幼児向けの音楽教育”という認識を持っていた人は多いはず。溝井さんによると、リトミックのプログラムは「読譜力を養うもの」、「即興力を鍛えるもの」、「音を身体で感じるもの(リズム体操)」の三本柱から構成されており、幼児教育に応用されているのはそのひとつ、リズム体操なのだといいます。
逆をいえば、リトミックを幼少期から続けることで、音楽家に必要な聴力や感性を磨くことが可能。仮にその子が音楽の道に進まなかったとしても、読み書きや計算、運動、創作をそつなくこなせる基礎能力が身につくそうです。
そうなると学生時代、クラスメートに一人は“何でもできるやつ”がいたかと思いますが、彼等はリトミックをやっていたのかも…!?
リトミックがどのような音楽教育なのかわかったところで、筆者にひとつの疑問が浮かびました。「そもそも何をもって音楽的な感性などが身につくといえるのか」ということです。その科学的根拠に対する溝井さんの見解は以下の通り。
「溝井さん:リトミックは手足を動かす音遊びが中心となりますが、脳にある感覚野・運動野の手足が占める割合ってすごく大きいんですよ。これは脳と身体の繋がりを表す『ペンフィールドマップ』をご覧になればわかりやすいと思います。手足を動かすことで、脳の広い範囲に刺激を与えることができるんです」
▲脳神経外科医 「ペンフィールド」の実験結果をまとめた「ペンフィールドマップ(簡易版)」
このペンフィールドマップは、脳の感覚野(痛みなど、あらゆる感覚に関わる部分)と運動野(発声など、あらゆる動きに関わる部分)がどの身体部位と繋がっているのか表している図です。今回は正式なペンフィールドマップを元に簡易的なものを作成しましたが、本物はインターネットで検索してみてください…!
さて、ご覧のように感覚野・運動野共に、その半分以上を手足が占めていることがわかります。リトミックは音楽を用いた音遊びですから、ただ単に手足を動かすことだけでなく、リズム体操などの映像を“見る”、その音を“聴く“、曲に合わせて“歌う(発声する)”という動作も加わるはず。一度に複数の指令を、脳は処理しなければならないのです。
また、人間の脳はそこまで正確な動きができるものではないといいます。仮に運動野の手にあたる部分が刺激された場合、その周囲(顔や腕)にも影響を及ぼすため、実際はより広い範囲で刺激を受けているのだそうです。
大人からみると「楽しそうで何よりだけど…本当に効果があるのかなぁ?」なんて思いがちですが、子どもたちの脳内では非常に高度な動き・やりとりが行われてるようです。それを幼少期から続けていれば、基礎能力の高い子どもに育ちやすいという話も頷けますね!
今や保育園・幼稚園でも取り入れられているリトミックですが、あるポイントを意識すれば自宅でも実践することができるそうです。
「溝井さん:代表的な例としてリズム体操が取り上げられますが、基本的にはリトミックに『これをすべき』ということはありません。強いていうならば、3つの動作を同時に行う音遊びの方が、子どもの脳に良い刺激を与えてくれるはずです」
“3つの動作を同時に”という点が鍵。ここで、溝井さんから教わった自宅で試せるリトミックの年齢別プログラムをご紹介しましょう。
0歳の子どもには、さまざまなジャンルの音楽を聴かせ、その音とリズムを感じさせてあげましょう。特別なことをする必要はなく、音楽を流しながら子どもを撫でてあげるなど、親子とのふれあいタイムがメインとなります。まだ言葉が出る前の1歳は、好きな音楽に合わせて首を振ったり全身の上下運動などを一緒にしてみましょう。
2~3歳になると言葉を発することができ、物の名称も覚えられるようになります。それを踏まえた上でオススメなのが以下の音遊びです。
【やり方】
1.スプーンやマグカップなど、何でもよいので家庭にある物を子どもに見せる
2.それを言葉で言ってもらう
3.手でリズムを加えながら言葉を発させる(例:スプーン→手でタタッタンと叩く)
この一連の動作には「物を見る」、「名称を発声する」、「リズムを取る」という3つの動作が含まれています。3に関しては文章で説明しづらいのですが、「スプーン」と言いながら手で“タタッタン(スプー ン)”と叩かせることで、言葉にリズムが存在することも感じられるはず!
人間の耳ができあがるのは5~6歳頃といわれています。この頃は、手足を使って「タタタタンッ」とリズム打ちするのをはじめ、自宅に楽器があれば「ピアノ」や「ギター」などの演奏にチャレンジさせてあげましょう!
リトミックの観点からいえば、楽器演奏は非常に効果の高い音遊び。ピアノは譜面を見ながら左右の手・左右の五指で異なる鍵盤を叩きますし、それに歌うという動作も加われば…脳への影響は計り知れません!
また、音よりもリズムに関心がある子どもなら、ドラムをやらせてあげるのもよいでしょう。楽器演奏は幼児教育に効果てきめんであるため、その子の興味や関心をしっかりと観察したうえで、種を植えてあげることが大切です。
最後に、溝井さんからこのようなコメントをいただいたのでご紹介します。
「溝井さん:最近は『0歳からはじめるリトミック』と謳った教室も増えており、この幼児教育に関心を持つ親御さんも増えていると聞きます。ですが、リトミックはあくまでツールでしかありません。本当に大切なのは、子どもたちに対して笑顔で語りかけ、興味や関心を引き出すためのきっかけ作りをしてあげること。『この子のため』と思って通わせたい気持ちがあるかと思いますが、日々の遊びの中に、ほんの少しリトミックを取り入れるだけでも十分です」
以上、代表的な幼児教育のひとつであるリトミックについてご紹介しました。自宅で試せるリトミックもたくさんあるそうなので、まずは自身のお子さんと音遊びすることからはじめてみてはいかがでしょうか?
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