世の中には音楽に関する仕事がたくさん溢れています。音楽講師のように、一般的に接する機会が多い職業から、一般の目には触れることの少ない裏方の職業まで、じつにさまざま。
今回は「作曲家」を取り上げ、職業に就くまでの経緯や必要なことなどを、ゲームやアニメ音楽の作曲を手掛けるO(オー)さん(男性)にお話をお聞きしました。
もくじ
作曲家は、文字通り音楽を創作(作曲)することを生業とします。アーティストの楽曲、CM、映画やゲームミュージック、ブラスバンドや行政に頼まれて曲を作ることもあり、仕事の内容は多岐に渡ります。
フリーランスで活動する人もいれば、ゲーム会社や音楽事務所、プロダクションなどに属し、その企業内の商品関連の作曲や、アーティストの楽曲を作曲するなどのケースに分かれます。後者の場合、契約の内容に応じて固定給のケースもあれば出来高制のこともあるようです。
企業などに所属する場合は、所属先から仕事を受けるので、今回はフリーランスに限って説明をすると、一番多いのがオーディション。
作曲家に限った話ではありませんが、オーディションに受かり一度仕事の発注を受けると、また直接発注を受けたり、クライアントが知人に紹介してくれたりと横のつながりから発注を受けることがままあるようです。
ここからは、Oさんのこれまでの話をご紹介。作曲家を目指す人にとって、何かヒントがあるかもしれません。
母親の嫁入り道具のピアノが自宅にあり、両親はピアノを弾かないものの、ピアノの講師をしている叔母の影響で、物心がついた頃にはピアノを弾いていました。自営をしていた店舗の二階でピアノ教室を開いていたため、赤ちゃんの頃からピアノの音色を聞いて育ちました。
Oさんは3兄弟ですが、ヘタなピアノの音が流れるとOさんだけが泣き出したそうで、叔母さんが「この子は音の違いが分かる。きっと音楽の才能があるはず」と母親を諭し、ピアノを習わせたのだとか。
小学校に上がる前に一度やめたピアノですが、小学校に入りレッスンを再開し、30代後半の現在までピアノを弾き続けています。
小学校1、2年の頃の担任の先生が素晴らしい方で、その人への尊敬と憧れの気持ちから、「教師」になりたいと考えていました。特別に音楽の教師にこだわっていたわけではなく、音楽大学自体もストレートで入れなければあきらめようと、一般の大学の受検準備も同時に進めていたぐらいです。
しかし、めでたく現役で音楽大学に合格。在学時に中学、高校の音楽教諭の免許も取得しました。在学中から作曲には興味があり、作曲の科目も受講、アルバイト感覚で大学生の頃から作曲の仕事を受けていました。
また、友人のすすめで受けた大手楽器メーカーの楽器のデモンストレータ―のオーディションに合格。デモンストレーターの仕事を始め、さらに在学時よりピアノを教えるアルバイトも行っていました。
講師になりたかったとはいえ、作曲の仕事も受けていたOさん。子供の頃ゲームで遊んだ時には、ゲーム自体はもちろん、同時に流れる音楽に魅せられたといいます。ゲーム音楽以外にも、元々音楽を聴くことが大好きなので、音楽を自ら作るということにも魅力を感じていました。
音楽教師の教員免許は取得しましたが、教員採用試験は受けず、またいわゆる就職活動はせずに、大学卒業後は在学中から始めた「楽器のデモンストレーター」、「作曲家」、「ピアノの講師」の3足のわらじで社会人生活をスタートしました。
25歳の頃にデモンストレーターとして契約をしていた企業の依頼で、ピアノの講師として韓国に移住。3~4年ほど現地で講師活動をしながら、その傍ら韓国のアイドルのプロデュースも行いました。
とても充実した生活だったので、そのまま韓国にいるつもりでしたが、家庭の事情で帰国を余儀なくされ、なんと稼業であるパン屋を手伝うことになったというから、人生は面白いものです。
パン屋の仕事は、それこそ接客から売り上げの管理まで、いわゆる事務作業全般をこなしました。それが30代前半のこと。パン屋としての仕事も充実していたものの、やはり作曲家をメインとしてやっていきたいと再認識。33歳の頃、再度作曲のオーディションを受けることになります。
オーディションには「落ちまくった」そうですが、ある1社から仕事の発注を受け、そこからまた仕事の依頼を受けたり、口コミで仕事を紹介してもらったりと横のつながりでどんどん仕事が舞い込んでくるようになりました。
そこで、一念発起し地元・大阪を出て住まいを東京に移しました。現在は、作曲の仕事1本で生活をしています。
CM、ゲームミュージック、アニメの音楽を手掛けています。依頼のケースはさまざまですが、2分程度の長さを6曲、2日以内に仕上げるということはしょっちゅう。1曲にかける作曲の時間が潤沢にあるということは、まずありません。いかに短時間でクライアントの意向を汲んだ曲が作ることができるかというスピード感も求められます。
発注されるときは「かわいい」「意識が高い人に向けて」「ふんわり」など、抽象的なキーワードを提示されるので、その抽象的な表現を具体化し「音楽」に仕立てます。
ゲームミュージックを多数手がけているので、電車の中などで自分が作曲した曲が流れるゲームをしている人を見かけることがあります。その瞬間は、なんともいえず興奮するとか。声には出さずとも、思わず「この曲、僕が作りました、って言いたくなるぐらいうれしい」のだとか。
PC、DAW(Digital Audia Atation/作曲ソフト)、オーディオインターフェース。最低限この3アイテムは必須です。全部揃えると数百万という、決して安い機材ではありませんが、これがないと仕事になりません。
作曲家を目指す学生や駆け出しの頃は、資金があまりない場合もありますが、良質の音源でないとメロディ自体が素晴らしくても、その質の良さは相手にきちんと伝わりません。もし本当に作曲家を目指す覚悟があるのであれば、最初にきちんとした機材を揃えることをおすすめします。
作曲家は音をクリエイトしますが、職人であってアーティストではありません。クライアントと打ち合わせをしながら求める曲を作り上げていく場合もありますが、基本的には「いかにクライアントの意向に合わせることができるか」が一番。個人の好き、嫌いは関係なく、何事も否定せず、要求された答えを導くのが作曲家の仕事です。
そして、「これまでに、どれだけ音楽を聴いてきたか」が、非常に重要です。たくさんの引き出しから、クライアントの要求にずばり当てはめる、しかも短時間で。もし作曲家を目指すのであれば、ジャンル問わずあらゆる音楽を聴くことが大切です。感性を磨くことも必要なので、音楽以外にも映画や絵画やファッション、旅、あらゆるものに多く触れるようにしているのだとか。インプットしないとアウトプットもできない。そして常に情報をアップデートすることも大事です。
そしてたくさんの人に会って、話すこと。人と話すことで、自分にはない価値観や経験を聞き、見識を広め、同時に人脈を広げることができます。人と会って話すことは、見識を広める以外の意味もあります。
どんな仕事であっても「人」あってのこと。クオリティの高い音楽を作るという技術以外に、この人に頼みたい、という人望、人格のひとになる努力をすることも必要です。
たくさんの物事、人に触れることが重要だと言いました。素の自分個人では興味のないことでも、仕事につながることがよくあります。引き出しの多さは、最大の武器になります。
Oさんは日課で毎朝スムージーを飲んでいるそうですが、偶然、スムージーのCMにつける音楽の作曲の依頼を受けたこともあったとか。偶然だったとはいえ、スムージーに関する知識があったので、スムーズに曲のイメージが湧いたそうです。意味のない行動などない、の最たる例ですね。
作曲家を目指す人ではなくても、仕事、はたまた生きていくうえで自分を高めていくヒントがたくさんちりばめられたインタビュー。Oさん、ありがとうございました!
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