リズムは音楽を構成する最も重要な要素です。リズムの強弱が繰り返される単位を「小節」といい、1小節の中で何回ビート(拍)を感じられるかで「拍子」というものが決まります。
世の中のほとんどの曲は2拍子、3拍子、4拍子の「単純拍子」です。これらのリズムは人間にとって自然で、とても馴染みが良いものですよね。
しかし中には、どういうわけかワザワザ自然なリズムを崩し、人間にとって自然には感じられない変なリズムで演奏される曲というものが稀にあります。変拍子とは、簡単にいうとそういう「変なリズム」のことです。
音楽に興味を持ってたくさんの曲を聴いたり、楽器の演奏を始めると、いずれ普通の拍子の曲では物足りなくなります(断言)。ひとたび足を踏み入れれば底なし沼。追いかけても追いかけても見失うリズム。多くの音楽家が挑戦し、そして散っていった変拍子の世界は、人類のロマンなのかもしれません。
ここでは、音楽好きを惹きつけてやまない独創的な変拍子の曲を、広く知られた名曲からマニアックだけどオススメなものまでたくさん集めてみました。
みなさんもぜひ、「1、2、3、4・・・」とリズムを数えながら聴いてみて、そしてハマったら抜け出せない変拍子沼に沈んでいってください。
※本文の最後で紹介するプレイリストでは、記事では紹介しきれなかった変拍子のオススメ曲もセレクトしています。
もくじ
まずはジャズのスタンダードとして広く知られている「Take Five」。5拍子の名曲です。
サックス奏者のポール・デスモンド(Paul Desmond)が作曲し、自身が在籍していたデイヴ・ブルーベック・カルテット(Dave Brubeck Quartet)で演奏したものが1959年のアルバム『タイム・アウト』に収録されています。
これは変拍子の中でも分かりやすいですね。
この曲に限らず、5拍子はこの曲のように「ターーターーターター」というリズムが多いのも特徴的です(有名な「ミッション:インポッシブルのテーマ」のイントロもこのリズムです)。
この曲の大ヒットにより、以降のジャズは変拍子もそれほど珍しいものではなくなってきました。
数えきれないほどのグラミー賞を受賞しているイングランドのシンガーソングライター、スティング(Sting)も意外と変拍子の曲が多いミュージシャンです。
中でもこの「Seven Days」は有名。5拍子のリズムで歌っていますが、とても自然でスムーズに聴こえます。言われてみないと変拍子だと気づかない方も多いのでは。
変拍子の曲は“わざとらしい”印象を受けるものも多くありますが、自然に聴かせるというのは作曲家やアレンジャーの腕の見せ所といえるかもしれません。
知る人ぞ知るイスラエルのソプラノサックス奏者のダニエル・ザミール(Daniel Zamir)。
彼の曲は変拍子や複合拍子のオンパレードで、サックスで吹くメロディーやアドリブ(即興演奏)もユダヤの音楽文化の影響が強く、普通のジャズとは違うかなり独特なものになっています。
この「Hatikva」という曲は実はもともとはイスラエルの国歌。シンプルなメロディーの原曲をダニエル・ザミールは5拍子の高速ジャズにアレンジし、熱く昂るプレイで魅せます。
ビートルズ(The Beatles)の名曲「All You Need Is Love(愛こそすべて)」は4/4拍子+3/4拍子という混合拍子で構成されています。
ビートルズの活動期間は1960年に結成され1970年に解散するまでのわずか10年間。
若い方にとってはもうあまり馴染みがなく、古い印象のバンドかもしれませんが、この10年間の短期間で「Yesterday」「Let It Be」「Hey Jude」などなど誰もが知っている数多くの名曲を残し、世界中の音楽文化の発展に大きな影響を与えています。ここで紹介した 「All You Need Is Love」などの斬新で遊び心のある音楽性が、今も多くのファンの心を捉えて離さない彼らの魅力なのかもしれません。
アヴィシャイ・コーエン(Avishai Cohen)はイスラエル出身のジャズベーシストで、’90年代後半から世界的ピアニストのチック・コリアのトリオで活躍したことで一躍有名になりました。
彼のオリジナル曲は中東の伝統的な音楽を組み入れた独特のリズムやメロディーが特徴的で、近年優れたアーティストが多数登場し盛り上がりを見せる“イスラエルジャズ”の先駆者のひとりとしても人気です。
この動画はそんなアヴィシャイ・コーエンの代表曲「Seven Seas」。複雑な7拍子のリズムがかっこいい!
1960年代後半のイギリスに誕生したプログレッシヴ・ロック(略してプログレ)を代表するバンド、キング・クリムゾン(King Crimson)。メンバーを次々に入れ替えながら現在も活動を続けています。
今回は1974年の名盤『Red』から、途中で13拍子になる「Starless」を紹介!途中までは4拍子ですが、歌が終わる4分15秒から13拍子に。ドラム3台というのも最高にかっこいいです!
プログレといえば変拍子、変拍子といえばプログレ。キング・クリムゾンは2021年8月現在、サブスク配信を行っていないため記事末尾に載せたプレイリストには掲載できませんでしたが、プログレ界隈からはドリーム・シアター(Dream Theater)、エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson, Lake & Palmer)の変拍子の曲をピックアップしています。
ダヴィ・フォンセカ(Davi Fonseca)は2020年にデビューしたブラジルの若手シンガーソングライター。デビューアルバムの1曲目「João no Pati」でいきなり17拍子という変態的リズムを披露しています。
これだけ複雑なのに、歌は意外なほどキャッチーで魅力的。ビリンバウやパンデイロといったブラジルの伝統楽器を交えたバンド編成も楽しいですね。
ダヴィ・フォンセカの出身地であるブラジルのミナスジェライス州は歴史的にポピュラー音楽でも変拍子が多く使われてきており、“ブラジルの声”とも讃えられるミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)なども変拍子が多いことで有名です。
アルメニア出身のジャズピアニストのティグラン・ハマシアン(Tigran Hamasian)は、アルメニアの伝統音楽やメタル、プログレなどに強く影響された独自の音楽で世界的に注目されています。変拍子やポリリズムも非常に多く、おおよそ人が人力で演奏していることが信じられない曲ばかり。
ここでご紹介する動画は2021年の新作『The Call Within』からの1曲で、曲名で示唆されているように21拍子です。
ティグラン・ハマシアンはオダギリジョー初の長編監督作品『ある船頭の話』(2019年)でサウンドトラックを担当したことでも話題になりました。
日本が世界に誇るジャズピアニスト、上原ひろみ。2020東京オリンピック開会式での市川海老蔵さんとの異色の共演も話題になりました。
彼女はプログレからも大きな影響を受けており、すさまじい変拍子の曲をたくさん書いています。
なかでもこの「Alive」は曲の大半が27拍子というリズムで進行しており、ちょっと凄すぎて開いた口が塞がりません。
変拍子の曲を演奏するには1小節を3拍子、4拍子などの細かいカタマリに分解してリズムを捉えると分かりやすいと言われますが、もはやここまで来ると凡人の理解を超越してきちゃっていますね。。
北アフリカの国チュニジアのウード奏者ダファー・ヨーゼフ(Dhafer Youssef)の「39th Gulay」はなんと39拍子!リズムを細かく分けていくと11+11+5+6+6(=39)という区切りになります。
下のライブ演奏動画ではウードやカーヌーンといったアラブ音楽文化圏では欠かすことのできない弦楽器と、ピアノやエレキギター、ドラムなど一般的なジャズで用いられる楽器が入り乱れる熱く壮絶なセッションが展開されています。演奏陣も地中海周辺諸国を中心に現代のジャズを代表する素晴らしい布陣。ぜひ、リズムを数えながら聴いてみてください。
変拍子のおすすめ音楽、いかがだったでしょうか。
ポピュラーな4拍子や3拍子のリズムは心地いいけれど、ここにご紹介したような変拍子の曲では妙な「引っ掛かり」のようなものを感じて頂けたのではないでしょうか。リズムに注目し、変拍子の面白さに気付くと、音楽を聴くことがもっと楽しくなります。
世界にはまだまだ面白くてかっこいい変拍子の曲がたくさんあると思います。
最後に、この記事では紹介できなかった曲も含め、おすすめの変拍子の名曲をプレイリストにしてみました。
ぜひお楽しみください!
たくさんの反響をいただきありがとうございます!
コメント等でここに載っていない多数のおすすめ変拍子曲を教えていただきましたので、別記事にてまとめました。
ぜひこちらもご覧ください。
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