サックスの発明から試行錯誤の歴史、ビンテージサックスの魅力まで
投稿者 :佐久本 政典
もくじ
今回はサックスという楽器について、その歴史やメーカー、そしてビンテージ楽器の魅力などについて深掘りしご紹介していきます!
今やクラシックやジャズ、ポップスなどジャンルを問わず花形の楽器と言えるサックス。
ぜひサックスという楽器の魅力を知っていただければと思います。
サックスは正式名称をサクソフォン(Saxophone)といい、1840年代にアドルフ・サックスというベルギー出身の楽器職人によって開発された比較的新しい管楽器です。
(写真)アドルフ・サックス(Adolphe Sax, 1814年 – 1894年)
木管楽器の製作者であったアドルフ・サックスは、クラリネットの発音部分のリードと金属製の管体を合わせ、より大きな音が出せ、かつ発音も容易で運指も行いやすいという画期的な楽器を発明しました。
サックスは「木管楽器」に分類されます。
金属でできているから金管楽器なのでは、とお思いになるかもしれませんが、木管楽器か金管楽器かの分類は材質ではなく音を出す原理によって分けられており、クラリネットと同様の発音原理であるサックスは木管に分類されるのです。
設計された当時は現在のようなオートマティックな機構は少なく、後に操作しやすいように改良されていきました。
1846年にフランスのパリで楽器としての特許が申請され、このとき「サクソフォーン」と命名。その後はセルマー(Selmer)社がライセンスを持ち製造をしていきます。
特にセルマーは当初から操作性の良さや機能性を重視してサックスに改良を加えていきました。
その中で今でもジャズプレイヤーを中心に愛機として人気であり、音も素晴らしいバランスアクション、スーパーバランスアクション、マークⅥというセルマー社によって生産された歴史的なモデルは半世紀以上経つ今も音楽を奏でています。
この中でも現代のサックスの構造の標準となっているマークⅥは音楽のジャンルを問わず人気で、現代でもその音を再現しようと各メーカーが管体の設計を研究し模倣するなど、セルマーを代表する名器として知られています。
セルマーなくしてはサックスの進化はなかったと言われるほど、音楽シーンとともに楽器自体も進化を重ねてきました。
セルマー以外で特に歴史的に有名なメーカーとしては、コーン(Conn)、キング(King)、ビッシャー(Buescher)などがありますが、いずれも現在ではサックスの生産をやめてしまっています。
日本のサックス製造の歴史も比較的古く、1890年代頃に田辺管楽器やニッカン、ヤナギサワというメーカーがサックスの開発や修理などを始め、戦前・戦後の日本の管楽器製造業界を支えました。
その後田辺管楽器は1955年に廃業し、ニッカンはヤマハに吸収され現在ではヤマハとヤナギサワが国産メーカーとして残っています。
この二つの国産メーカーは吹奏楽を始めクラシックやジャズ、ポップス界のプレイヤー達にも多くのシェアを獲得しており、サックス三大メーカー(セルマー、ヤマハ、ヤナギサワ)として知られています。
そして、生産コストを下げる目的もありアジア圏にも工場が増えており、特に台湾には長いサックス生産の歴史があります。
台湾メーカーも当初はセルマーのコピーだったり品質も良くなかったりとありましたが、今や三大メーカーにも引けを取らないクオリティで世界的に沢山のプレイヤーによって吹かれています。
元祖とも言えるジュピター(Jupiter)を始め、カドソン(Cadeson)、P.モーリア(P.Mauriat)やアメリカのメーカーで台湾で生産をしているキャノンボール(Cannonball)等、その品質と価格も含めてサックス市場のメインストリートに肩を並べています。
また最近ではベトナムが台湾製の次に高品質なサックスを作っています。
このベトナム製ですが、かなり良い楽器を作っていて、フランスの植民地時代の名残もありセルマーの楽器も多く残っているそうです。
このように今や様々な国で沢山のメーカーがサックスの生産をしていますが、先程も述べたようにどのメーカーもセルマーのビンテージサックスの音や作りを追っているのもまたセルマーの偉大さを物語っています。
セルマー以外にも、前出メーカーのサックスのビンテージ楽器はどれも魅力的な音を鳴らします。
コーンのニューワンダーシリーズは特に人気で、現代のサックスにはない木管的な温かい音を出します。特に低音のキーが左右交互に設置されたバタフライ構造が特徴的で、次に登場するビッシャーのサックスもこの機構を取り入れてます。
ビッシャーの創立者はもともとコーンで職人をしており、その後独立した経緯があるため、構造がコーンのサックスに似ている部分があります。
ほかにコーンの管体で特徴的なのは、キーの穴の部分のトーンホールの縁が丸く加工された「カーリング」と呼ばれる技術が挙げられます。これは非常に手間のかかる製法ですが、これによってパッドの密閉度やキーレスポンスが向上するといったメリットがあります。
セルマーはかなり職人の手を使って作られてるため、現代のように量産性にあまり向いてない作りではあるのですが、この細かい手作りによってなんとも言えない響きを出せるという魅力があります。
次にセルマーのビンテージ楽器について。
セルマーも沢山のモデルを発表してきましたが、ジャズプレイヤーも愛用しているところから見ていくと、シガーカッター(1930~1933年頃に生産)、ラディオ・インプルーヴド(1934~1935年頃)というシリーズがあり、今では低音のトーンホールは管体の右側についてますが、このモデルまでセルマーも左側についていました。テーブルキーも特徴的で後に人気も出るソプラノのマークⅥと同じ形状でした。
次にバランスアクション (1935~1947年頃) が登場し、テーブルも今と同じ型になり操作性も向上し音も素晴らしいの一言に尽きるところです。
マイナーチェンジの要素が多いですが、その次にスーパーバランスアクション、正式にはスーパーアクション(1948~1953年頃)というシリーズが登場します。これはキーの配列を改善し、より操作性を向上した楽器になります。
特に有名なところでは、アメリカのサックス奏者ジョン・コルトレーン(John Coltrane)が長年スーパーバランスアクションを愛用していたことで知られています。
そして、いよいよ名器マークⅥ(1954~1981年頃)の登場です。
(写真)セルマー マークVI アルトサックス
この楽器の音こそジャズの音といっても過言では無いくらいジャズシーンに根強く愛された楽器です。
特にこのバランスアクション、スーパーバランスアクション、マークⅥは昔も今もジャズプレイヤーの愛機として使われて来ました。
音にも特徴があるので、分かる方にはこのレコーディングで楽器変えたのかななど、気づけたりもするかもしれません。
他にもビンテージとしてのメーカーやシリーズは色々とありますが、音と機能性の向上、また生産性の向上を含めた進化をしていき、現代のような形になっていきました。
次に現代では沢山のメーカーが色々なタイプのサックスを研究して開発しています。
その中で使う材質や表面処理加工等、サックス作りには欠かせない部分があります。
まず材質から説明すると基本的にサックスは5円玉と同じ真鍮(ブラス)で出来ています。
これは銅と亜鉛の合金で70:30の割合が多いのですが、65:35等比率が違うものを使っていたりとメーカーやシリーズによって異なると思います。厳密には企業秘密な部分もあるため、どんな素材をどんな割合で使っているかはものによって異なってきますが、サックスという楽器は基本はこの真鍮で出来ています。
ビンテージの楽器でよく噂されるのですが、昔は合金製造技術が未熟だったため不純物が含まれていたり、個体によって品質が安定しておらず音にも影響があった、という話も聞きます。
そして、この銅の比率を多くしたブロンズ製の楽器も登場します。見た目の特徴としては10円玉のようにピンクになります。
またソリッドシルバーやスターリングシルバー等、銀で出来たサックスもあります。
特徴として真鍮と比べると銀の方が硬いため、特に音の立ち上がりや反応に影響がある感じです。
最近では青銅という銅と錫の合金だったり、ニッケルを混ぜた素材を使っていたりと材質にもかなりバリエーションがあります。
一つ余談ですが、ビンテージサックスの中には本体をプラスティックで作られた楽器もあります。
また最近は総プラスティックのサックスもあり、安価で水洗いができるなどの特徴があります。
次に楽器の表面処理についてです。
昔から続くのはラッカーや銀メッキ、金メッキまたプラチナメッキというものが主流でしたが、現在は他にも様々な処理が施されています。
一例として、ラッカーを何もかけずにそのままの状態のノーラッカーやブラックニッケルメッキ、皮膜処理をしたものなどが存在しています。
ここでまたちょっとした雑学ですが、身近にある銀色の製品は大体がニッケルがかけてあり、その下地に銅がかけられることが多いです。
ニッケルメッキにも種類があり電解メッキと無電解というのが主にあり、また青く輝く製品はクロメート処理されてて、亜鉛メッキに表面処理を行います。車の座席の台座の黒い部品も黒クロメートで亜鉛メッキをして皮膜処理をしています。
また金メッキの下地にもニッケルや銀をかけることが多く、金メッキが剥がれた部分が銀色になるのはそのためです。
ちなみに奈良の大仏も金メッキがされており、アマルガムという、水銀と金を混ぜて水銀だけを蒸発させるという人体に悪影響のあるとても危険な処理をしていたといいます。
あともう一つ余談ですが、電柱や鉄骨など外にあっても錆びないものがありますが、これは溶融亜鉛メッキといって溶かした亜鉛直接製品を沈めて表面張力で付着させる技法で処理されてます。
ちょっと話はそれましたが、サックスも勿論当初は腐食防止のためのラッカーがけや表面処理でしたが、音質を決める重要な部分でもあるため、各メーカーが色々と研究をして現代のサックスの開発が進められています。
工業製品でもあり楽器でもあるサックスの開発の裏側には、沢山のアイディアや試行錯誤が日々繰り返され、新しい機種が誕生してきた長い歴史があります。
サックスを吹いたことが無い方も、ぜひ楽器店に寄ってサックスを観察してみてください。
きっと楽しめるかと思います。
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