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ドラマ『白線流し』を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。スピッツの「空も飛べるはず」は諸説ありますが、シングルとして出したからヒットしたワケではなく元々はアルバム曲であったこの曲をドラマ起用され人気が出たのでリミックス(音量バランスなどを再調整)して再シングルリリースしたという逸話があります。
王道とも言えるAメロ、Bメロ、サビと来る今や教科書にも載っているこの曲ですが、王道と呼ばれる曲を作るのはなかなか簡単なものではありません。近年こそ、ポップスに於けるヒット作の作り方などは言われておりますが1994年当時のこの曲を楽曲分析してみると既にその要素はたっぷりと詰まっております。サビだけ抽出してみても、一音ずつ上に登っていく上行系の歌い出し。「海原へ〜」の跳躍音符。これは耳を奪われるハズですよね!今回はこの「空も飛べるはず」の解説をしていこうと思います。
「空も飛べるはず」のドラム演奏面に於ける特徴ですが、王道ポップスに聞こえる中でいかにオシャレさを出すか、と筆者は思っております。特にスピッツのドラマーである崎山龍男さんはハイハットやスプラッシュシンバルなど金物系の扱いがとても上手なんです。ドラムセットはシンバルやスネア、ベースドラムなどサイズの大きい楽器が目立ってしまいますし、どうしても耳に残ります。そうした中で比較的音量の小さい楽器をセンス良く入れられるかどうかがドラマーとしての腕の見せ所ではないかと筆者は思うのです。
実際にドラマーが拘ったフレーズでも、フロントで歌うボーカリストには聴き劣りしてしまいます。しかし、それでも拘るからこそ素敵な楽曲は産まれるのではないでしょうか?「空も飛べるはず」ではそんな派手さはないけどオシャレなフレーズにフォーカスして行きたいと思います。
筆者が実際に「空も飛べるはず」を演奏してみました。
イントロではベースドラムにフォーカスしていきます。このパートではベーシストの演奏するベースラインを良く聞いてみましょう。そもそも、ベースドラムはBass Drumと表記するのですが日本人はよくこれを「バスドラム」と読む傾向が強いですが、このバスドラムという読み方ですと海外では通用しないので改めましょう。ベースドラム。その名の通りベーシック、土台を支える楽器なのですが役割はベースの音を更に立体的にする為の役割を持っています。
楽曲に於けるベースドラムは適当に叩いているワケではなく、あくまでベーシストのフレーズに寄り添っているのです。寄り添っているというのは「同じフレーズを演奏する」という解釈をして相違ありません。なのでイントロはベースドラムが多いのでよくベーシストのフレーズを聞いてあげましょう。
対比的になっているのがAメロです。Aメロはいわば曲の導入部なので静かに叩くのが王道ポップスのセオリー。上述の通りベースドラムはベースラインに合わせて叩きつつ、低音にたいして対になっているのが高音。ここではハイハットですね。ハイハットを静かに叩くポイントを考察してみましょう。
ハイハットは演奏者の個性がもっとも出る楽器なのではないかと筆者は思います。Aメロに於けるハイハットの重要性はどの楽器の中でも一番気をつけなければならないのではないかと思います。まず、スティックのチップで叩きます。この時に左足もしっかりペダルを踏んであげましょう。シャープな音を出す為にアタック音はチップで叩いてあげる事によって解決できますが、サスティン(音の余韻)は左足の踏み具合で調節されます。ハイハットはドラムの中で唯一意図的に音の長さが調節できる楽器です。ハイハットのハーフオープンは皆さんご存知かもしれませんが、クローズしている時も左足の踏み具合でかなり変わるので意識してみてください。
さて、Bメロはある意味一番オイシイフレーズかもしれません。前述の通りドラマーにとってのこだわりフレーズがこのBメロではないかと筆者は思います。実際、「空も飛べるはず」を演奏してみて一番楽しいのはBメロだと個人的には思います。その理由ですが、ハイハットに注目してみてください。スネアのバックビートやベースドラムの位置は変わっていないものの、ところどころ「チキチッ」という16分音符が随所に見られます。コレはスピッツのドラマーである崎山さんの手グセでもあるのですが、スピッツの曲ではよく出てきます。
俯瞰的に見てみましょう。この「チキチッ」というフレーズを叩いている時に他の楽器は何をしていますか?おそらく全員ロングトーンで伸ばしているハズです。そう。この16分のフレーズは間延びさせないように間を埋めているのです。しかも、一概に間を埋めると言ってもクローズしたハイハットで叩けば目立たないのです。なかなかニクイプレーをされますよね崎山さん。もはやロングトーンの間を取り持っているこのフレーズはある種、曲のリフと言っても過言ではないのでしょうか。聴こえないようでとても意味のあるフレーズ、オシャレですね。ぜひ、今後のドラマーライフに活かしていきましょう。
サビではフィルインにフォーカスしてみましょう。フィルインはフレーズとフレーズの間を繋げる役割が主なのですが、それだけでは勿体無い!ドラムが目立つのはフィルイン!と言っても過言ではないです。ではどうやって付加価値を付けるか、それは「ダイナミクス」なんです。昨今ではDTM、いわゆるDesk Top Musicの発達で打ち込みのドラムが作品の殆どを占めているのではないでしょうか?時代とともにソフトウェアも進化し、今ではとてもリアルなサウンドを打ち込みで再現できるようになりました。確実な安定したビートは打ち込みドラムに勝るものはないでしょう。しかし、それだけでは音楽の人間味はないのです。微妙なリズムのヨレだったり、ダイナミクスがあるからこそ人間味のある共感を産む音楽になるのではないでしょうか。
「空も飛べるはず」のフィルインではハイハットを少しづつ開きながらスネアと同時に、その後はスネアとフロアタムというようにクレッシェンドさせるのと同時に叩く楽器も変えていっています。このように、叩く楽器を変えるだけでダイナミクスは大きく変わります。ドラムの音量を出すのはスティックの振り幅、距離によって変わるのですが、スティックだけに頼らず楽器にも頼ってみましょう。せっかく、ドラムは沢山の打楽器集合体なのですから!
EYS音楽教室では、「演奏したい」と思った楽曲を最初から最後まで私たちインストラクターが細部まで指導させて頂いております。決まったメソードがない分、早い段階から演奏したい曲を叩くことによってモチベーションも高いままキープできますし、その曲を演奏しながらベーシックスキルを磨くことも勿論可能です。最近ではオンラインレッスンも開講しており、お家にいながらスキルアップができる画期的なレッスンも実施中です。今、体験レッスンを受講して頂けると電子ドラムを無料でプレゼントさせて頂くキャンペーンもやっておりますので、気になった方はぜひお気軽に体験レッスン受講してみてください。
ただ叩くだけではない、そのフレーズの裏には何があるのか、筆者の好きな言葉の中にこのようなフレーズがあります。
「どう叩いたかではなく、なぜそう叩いたのか考えて欲しい」
筆者が好きなドラマーのひとりの言葉なのですが単純に演奏方法だけではなく、楽曲に対して俯瞰的なミュージシャンになれるようになれればこれほど嬉しい事はありません。一見、シンプルなフレーズの中にも俯瞰的に見れば解る事って音楽だけじゃなくてもあると思います。どうしても派手なフレーズに目がいってしまう事が多いですが、ぜひ楽器と楽器のアンサンブルを意識して聞いてみると新たな世界が広がるかもしれませんね!最後まで読んで頂きありがとうございました。