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スピッツのチェリーと言えば、もはや知らない人はいないのではないかという程認知度の高い曲ではないかと思います。スピッツの中で「ロビンソン」と同じくらい売れたミリオンセラーの楽曲ですね。タイアップ(CMソングやテレビドラマのテーマ曲のような意味合い)が付いていないにも関わらずミリオンヒットしたというのは昨今ではとても考えられない大快挙です。諸説ありますが、元々この曲は違うリズムで収録されていたにも関わらず、ミックスダウン後にアレンジされ直したそうです。
筆者もレコーディングの仕事はよくしているので解るのですが、ミックスダウン(ボーカルやギター等、全ての音を一緒にした状態)の後にリズムパターンを変えるというのは相当とんでもない事でして、私なら発狂してしまうかもしれません。リズムパターンが変わるという事は様々なアレンジが変わるという事なので当然「やり直し」という事になります。少し話が逸れますが、せっかくなのでレコーディングの流れは作曲(大元となるメロディーをギターの弾き語りのような感じ)→アレンジ(それぞれがパートを考えてきたり、楽器ごとの絡みを組み立てる※後述にも書きます)→プリプロダクション(イメージを統一させる為に仮に録音してみる)→レコーディング(周りの音が入らないようにそれぞれ別のブースに入りテンポもしっかり合わせて録る)→ミックスダウン(それぞれとった音を合わせて音量バランスなどを整える)→トラックダウン(まとめた音をCDに書き出す作業)、、、一つの音楽を制作するまでにはここまでの作業をしなければならないのです。数曲入りのアルバムの場合はこの後に曲と曲同士の音量を揃える「マスタリング」という作業も増えます。
作曲からミックスまで様々な工程がある事が解って頂けたでしょうか?その上で、ミックスした後にアレンジ工程に戻るというのはメンバー・スタッフ様々な感情があったのではないかと思います。しかし、ここでチェリーのリズムを変えてくださった事によって爆発的なセールスが産まれたのではないかとも思えます。
上述しましたが、チェリーの特徴はやはり、「リズム」なのではないかと思います。フレーズはとてもシンプルなこの曲。ドラムだけでなく、ギターやベースなど楽器を初めて演奏し始めた方もトライする事が多いこの曲。しかし、よくよく紐解いてみると根幹となってるリズムは結構難しいのです。三連符という「タカタタカタ」の音符から真ん中の音符が抜けた状態の音符ですね。
このリズムを用いると、通常だと「タタタタ」というリズムが「タッタタッタ」というリズムで演奏しなさいというようになります。これが、地味に難しいのです。特にベースドラムですね。チェリーは入門編の曲というイメージがとても強いのですが、それはあくまでこの「シャッフル・リズム」を度外視したマスター論なので、今回は是非シャッフルも体得して頂ければと思います。
ドラムインストラクター沼田翼がチェリーを実際に叩いてみました
まずは、イントロです。、、、出だしからこのフィルイン。初心者にはかなりハードル高いと思います 笑 それもそうです。スピッツ、、、ドラマーの崎山さんは初心者向けにこの曲を制作したワケではありませんからね!まず、このフィルインがとても秀逸なのは【ドラムセットに於ける全ての楽器を使っている】からなんです。スネアから始まりハイハットを開け閉め、タムからシンバルに流れる。
実に綺麗ですね。筆者は自他共に認めるスピッツフリーク、、、スピッツの曲は数百曲全てコピーし、ドラマーの崎山さんともたまにお会いするのですが、筆者がなぜここまで崎山さんのドラムが好きかというと、理由は多々ありますが、その中の一つは「ドラムセットを満遍なく使っている」からなんです。ドラムセットは沢山の楽器がありますが、実は満遍なくドラムセットを使えているドラマーさんは結構少ないのです。よくあるのがスネアだけ、やハイハットとスネアだけになっている方が殆どの中、崎山さんはたったの2拍でスネア、ハイハット、タム、シンバルと上手い具合に扱うセンスは素晴らしいの一言に尽きてしまいますね。下の写真は筆者のドラムセットですが、全ての楽器を使うの?とたまに聞かれます。使うんです。この大きな楽器を満遍なく使える事がドラマー冥利に尽きるのではないでしょうか。
スピッツの曲はボーカルの草野さんもご自身でお話されていますが、構成がシンプルな曲が多いです。イントロが無かったり、アウトロが無くてスグに終わったり。このチェリーも例外ではありません。ポップスのセオリーであるAメロ、Bメロ、サビという流れがある中でBメロは存在しません。草野さん曰く「早くサビに行きたいから」なのだそうです。曲を作るのは自由。決まりも制約もありません。その中でこのチェリーのAメロは実にシンプルで良いですね。歌い出しも8分音符一泊待ってから歌い始める事によってより、引き込まれます。
ドラムに関しては、特にテクニカル面において気をつける所は正直、無いんです。ただ、冒頭でも述べたように「シャッフル」のリズムは全編通してキープしなければならないのでシンプルなれどリズムパターンはしっかりとキープしましょう。
サビは、まずベースドラムのリズムに注目して頂きたいです。実はここのベースドラムは1小節の中で4発叩いているのですが、2つ目のリズムが16分音符の裏で入っています。シャッフルのリズムをキープしつつ、16分裏でベースドラムを入れるにはなかなか慣れが必要なのですが、ここにベースドラムを入れる事によって曲がシャープな印象になっているのです。よく聞いてみると、田村さんのベースラインと一致している事がわかります。ボーカルがロングトーンで歌っているとどうしても間延びしてしまう印象があるので、16分裏でベースドラムを入れてあげる事によって曲全体が突き上げられ、キリッとしまう。是非、そこをマスターして頂きたいですね。
最後のフィルインは最初はアクセントをシンバルでユニゾンしているものの、後半は2番のAメロにスムーズに繋がるように作られています。おそらく、サビとAメロの間にインターバルが無いので(殆どのポップス曲は4小節くらいバースがあります)歌の流れを止めたく無かったのでは無いかと思います。バースを入れないのもボーカル草野さんならではですよね。ドラムがアレンジをする際に気をつけなければならないのは「シンバルは一撃必殺」という事を筆者は念頭に置いております。シンバルは耳に残る反面、間違った使い方をすると曲を壊してしまう可能性があるので、崎山さんはサビ終わりからAメロに行く途中前半2拍はシンバルでユニゾンアクセント。後半2拍は太鼓とハイハットで余韻の少ない楽器でフィルインをしているのが特徴的だと思います。
EYS音楽教室では決まった教本は使っておりません。なので、「演奏してみたい」と思った曲をスグに演奏できるようになるのがポイントです。また、経験豊富なインストラクターが多数在籍しているので、今回のチェリーのように曲の裏側まで熟知したインストラクターにより更に深くまで音楽を紐解く事ができるのも魅力の一つです。ドラムコースでは電子ドラムをプレゼントしているなど、楽器を演奏するハードルを極力下げる努力をしており、音楽は気軽に始められる。決して敷居の高いものではないと感じて頂ければ何よりです。最近ではお家にいながら技術向上できるオンラインレッスンも行なっておりますので、気になった方はぜひ気軽にいらしてくださいね!
いかがでしたでしょうか?今回はスピッツのチェリーについて執筆させていただきました。筆者が大のスピッツフリークという事もあり、度々脱線してしまいましたが最後に一つだけ、、、スピッツは4人組のロックバンドなのですが当時のスピッツをプロデュースしたプロデューサーの笹路さんがとても敏腕なんです。
チェリーはマイナーコード(暗く聞こえる)が多いけど、シャッフルのリズムによってそれ程暗くなく程良い哀愁感を出していて、そこにスピッツにしては珍しいストリングス(ヴァイオリン等の弦楽器)が入ってる事によってマイナーコードを上手く仕上げているという所が筆者はドラム以外に是非後ろのオーケストレーションにも注目して聴いて欲しいポイントだと思います。
長くなってしまいましたが、音楽は一つの楽器だけで完結するものではありません。様々な楽器がミックスされてこその楽曲なので、ぜひドラムだけでなく他の楽器にも耳を澄ませてみてください!