チェロの弓の正しい持ち方 3つのポイント【現役チェロ講師が解説】
投稿者 :沼田翼
こんにちは。EYS音楽教室チェロ・ヴァイオリン・ドラム講師の沼田です。
今回はチェロを弾き始めた初心者の方によく相談される“手が疲れる/痛くなる”問題についてお話ししていきたいと思います。
チェロは楽器本体を床に置くことにより構えることはそんなに難しくはありません。ただ、弓は右手で支えていないと落ちてしまいます。この“落ちてしまうから支える”という所が右手を疲れさせてしまう原因なのです。
今回は、右手にフォーカスしてお話ししていきたいと思います。
もくじ
まずは、チェロの弓はどのようにして弦に触れているのか、音が出るのかを確認してみましょう。
同じ弦楽器の仲間であるヴァイオリンは楽器自体が地面と平行になっており、その上に弓を乗せるので正直右手で弓を“持ち上げる”ような感覚はほとんどありません。
ただ、チェロはヴァイオリンと違って弦が地面に対して垂直に近い傾斜がついていますよね。当然、普通に弦の上に置いただけではツルッと床に落ちてしまいます。
勿論、弓が落ちてしまっては演奏にならないので右手で“持ち上げよう”としてしまいます。コレが冒頭の節にもあります「右手が疲れる」「右手が痛くなる」という根本的な原因なのです。
では、先に考え方から入ってしまいましょう。
ポイントは“スキー”を意識した楽器を斜面に見立てた置き方です。
スキー(スノーボード)というスポーツは板を斜面と同じ向きにしたらドンドン滑っていってしまいますよね。
逆に斜面から真横を向けばその場に静止できるハズです。
特に、スキーは“ハの字”でも止まることができますがスノーボードは完全に横を向かないと止まることはできないと思います。
チェロも似たようなイメージでこの習性を利用してあげます。
(左:良くない例 / 右:正しい例)
そもそも弦楽器は弦に対してキチンと垂直にならないと弦からの抵抗感を感じることができずに音が出ません。
さて、ここで僕が実際にレクチャーしていることをぜひ一緒にトライしてみて下さい。まず、目標にしたいのは
・右手に力を入れずに弓が動かせているかどうか
・弦の抵抗感を感じられているかどうか
を気にしながらトレーニングしていきます。
何をやるかと言いますと、チェロの傾斜を緩くしてなるべくヴァイオリンに近い形を目指して弓を置いていきます。
まず、エンドピンをなるべく伸ばします。
そこからエンドピンをなるべく自分から遠ざけた位置に置いて傾斜をかなり緩めます(楽器を横にするイメージ)この時にフォームは気にしなくて良いのでなるべく楽器の傾斜を緩くすることを一番に考えて下さい。
無理なく楽器が倒せたら弓を乗せます。
(左:傾斜を付けた例 / 右:通常の例)
楽器自体にかなり傾斜が付いているので右手の力はほとんど要らないハズです。
極端な話、親指と人差し指だけでもある程度弓を支えることができると思います。
まずは親指と人差し指で弓を摘んだ状態で動かしてみます。多分、コレだけでも音は出ますよね。そこから弓を本来の持ち方に戻して動かしてみるとほとんど右手に力をかけることなく動かすことができていると思います。この時のポイントは右手の親指がしっかり自然に内側へ曲がっているかどうかを確認しましょう。親指が反対側に反ってしまっていると余計な力が入ってしまっている状態です。
関節が曲がってくれていれば指に力を入れる必要がなくなります。
そこから、徐々に徐々に傾斜を付けていきましょう。
ただ、いきなり傾斜をつけるのではなく徐々に徐々に右手の感覚を気にしながら楽器を立てていきます。右手が“少し力んだな”と思ったらそこの傾斜位置で止めてまた暫く右手を動かして感覚を掴んでいきます。
こうしていくうちに、弦からの抵抗感を自然に感じつつ右手の力(筋力)が実はそんなに必要ではないということが解ってくるかと思います。
次は、弓の持ち方を今一度振り返ってみましょう。
弓って随分複雑な持ち方になってしまいますよね…。しかし、この持ち方の意味を理解すればフォームの安定や加重の掛け方がわかりやすくなってきます。
まずチェロの弓の持ち方で一番大事なのは全ての関節を曲げてあげることです。特に親指ですね。我々人間は関節が伸びてしまうと、どうしても筋力を使ってしまう生き物なので脱力することを心がける為にも指の関節が曲がっているかを意識してみて下さい。この時に僕が指標としているのが親指の第一関節です。親指の第一関節が弓毛に触れるくらい曲がっていると安定します。親指の関節が伸びてしまうと親指の付け根が腱鞘炎になってしまうほど力が入ってしまうことがあるので気をつけましょう。
次に、よくヴァイオリンと比べられるチェロですが弓の持ち方で大きく違う所が中指〜小指までの位置です。ヴァイオリンは楽器の真上に載せるのに対して、チェロは楽器が斜面になっている為に弓を完全に楽器の上に乗せることができません。ここで、チェロにおける中指から小指が大事な役割を果たしてくれます。ヴァイオリンは弓の真上に指が乗るような持ち方ですが、チェロは弓の反対側まで越えて持ちますよね。
それは少しでも弓の落下をフォローする為でもあります。なので、親指で押さえつけないでも他の指達でフォローすることができます。イメージとしては自分の目の前に机があったとして「ハァ疲れた…」と手を置くようなイメージで弓に中指〜小指を置いてあげると理想的な位置(特に、指と指の位置関係)に来るかと思います。
(左:チェロの持ち方 / 右:ヴァイオリンの持ち方)
さて、最後に大事なのが人差し指です。中指〜小指までは密集しているのになぜ、人差し指だけ離れているのか…
実はコレが音を綺麗に出す為の秘訣なんです。
チェロは何もしないと弓が落ちてしまうので、中指〜小指までを使ってフォローするのですが、この指達が適用できるのは弓の真ん中辺りまでなのです。そこから先、特に弓の先は人差し指の存在が必要不可欠になってきます。弓先は特に下がってしまいやすいので、人差し指で引っ掛けるようにフォローしてあげると弦から下がらずに弦に対してまっすぐに弾くことが楽になります。人差し指だけでなく手首の動きも加えてあげると、よりコントロールがしやすくなります。弦に対してしっかりと垂直に弓を当てることを意識して弾いていけるといいですね。
さて、理屈的には色々と語ってしまいましたが結局演奏するのはご自身の身体なので、自分の身体がどう動いているのかを知ることがとても大事になってきます。
例えば、弓の元で構えている場合は手首や肘がかなり曲がっているハズです。逆に、弓先で弾く場合は肘はほとんど伸びきって手首は逆に曲がることになります。
曲を演奏している時は視覚のほとんどが譜面に行ってしまいます。この時に自分の弓がどの辺りで弾いているのかを察知するのは視覚ではなく右腕の触覚に頼ることになります。
弓という楽器は長いので特に弓先に行った時は自分の視覚の範囲外にあることがほとんどです。
ここで、具体的に腕がどのような動きをしているのかを理解してみましょう。
まず、弦の上に弓を置きます。この時に弓の位置は真ん中より少し元にあった方が良いですね(あまり元過ぎると音が歪んでしまい易いので)そこからダウンボウイングをしていくと、まず肩が開きます。そこから弓の真ん中を過ぎた辺りで肩の開きが止まり、今度は肘が開き始めます。
この時に注意しなければならないのは肘と並行して“肩が開いてしまう”ことです。
ここで肩が開いてしまうと弓を手前に引っ張ってしまうことになり隣の弦に触れてしまいます。
逆に肩ではなく手首をしっかりと内側(谷折りのような形になる)に曲げながら弦への接地面を意識しましょう。
次はアップする時ですね。
アップする時は弓自体の向きを意識することはとても大事なのですが、同時に手首の動きも意識していきましょう。
アップ時に気をつけたいのは手首をいかに曲げ切れるかという所になります。ポイントは人差し指の付け根をf字孔目指して動かして行くと自然と肘と肩が付いていきます。
大事なのは、アップし始める時にしっかりと人差し指で弦に対して圧をかけてあげることですね。
弓先は軽い分、どうしても音が薄くなってしまいがちです。弓先を乗せた後に親指を支点として人差し指でテコの原理を利用するイメージでしっかりと“弦に引っ掛かる感じ”を意識してからアップし始められるとハッキリと発音することができます。
このように、「ただハッキリした音を出す」だけではなく“どうすれば”ハッキリする音が出せるのか、またハッキリする音になるのは“どういう状態なのか”を理解してあげることがとても大事になってきますし、自分の演奏も楽になってきます。
演奏は様々な要素が複合的に絡み合っている為に難しく感じてしまいがちです。
では、どうすればプロの演奏者のように軽々と弾けるようになるのか?
それは、一つ一つの要素を“無意識”にできるかどうかです。
・指板を見ないで演奏できるか/視覚の触覚化
・弓を見ないで演奏できるか/視覚の触覚化
・譜面だけを見て演奏できるか/視覚の集中
が大きく分けて大事な要素になってきます。
一番楽に演奏できるのは“暗譜”してしまうことです。演奏する曲を譜面を見ずに暗譜してしまえば、“視覚”という人間において最も多量に入ってくる情報を弓の動き等の演奏に集中させることができます。なので、なるべく譜面に頼って演奏せずに、自分の身体が今どんな動きをしているのかを意識しながら練習してみることをお勧めします。
特に、曲の練習ではなく音階練習や調弦をする時に確認できると一石二鳥の密度の濃い練習ができるのでぜひトライしてみて下さい。
いかがでしたか?
自分の中で“理想的な音”をイメージすることは勿論とても大事なのですが、それと同時に身体をどう動かせばいいかを意識して練習できるといいですね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
これからも素敵な演奏を目指して音楽を楽しんでいきましょう。